SDSの役割と最新JIS改正(2025対応)
― SDSは「安全管理の標準ガイド」から「サステナビリティのデータ基盤」へ ―
SDS(安全データシート)は、化学物質管理の中心に位置する文書です。危険有害性、法令区分、保管方法、廃棄方法など、化学物質に関するあらゆる情報が集約されており、現場の安全、法令遵守、環境管理、サステナビリティ開示のすべてを支える“データ基盤”と言えます。
2025年のJIS改正(JIS
Z 7252:2025/JIS Z 7253:2025)は、このSDSの役割をさらに強化し、国際基準(GHS
Rev.9)との整合性を高める大きな転換点となりました。ここでは、SDSの役割と2025年改正のポイントを、実務視点で分かりやすく解説します。
こんなお悩みありませんか?
2025年JIS改正に伴う、手持ちSDSの「再分類」に膨大な工数がかかっている
取引先からの「最新SDSの収集」や、古いデータの差し替えが追いつかない
新基準に合わせた「容器ラベルや教育資料」の更新に時間を取れない
サステナビリティ開示(SSBJ)に向けた「データの一元管理」が進まない
1. SDSの役割は「安全(危険性)の伝達」だけではない
従来、SDSは「危険有害性を伝える文書」として扱われてきました。しかし現在のSDSは、それ以上の役割を担っています。その役割は次の4つです。
① 現場の安全管理
- a. 危険有害性の把握
- b. PPE(保護具)の選定
- c. 漏出時の対応作業手順書への反映
② 法令遵守の根拠
- a. 安衛法(SDS交付義務)
- b. 化審法(規制物質の確認)
- c. PRTR法(対象物質の把握)
- d. 消防法(危険物区分の判断)
③ リスクアセスメントの基礎データ
蒸気圧、沸点、反応性、毒性など、評価に必要な情報はすべてSDSにあります。
④ GHG排出量(Scope1/3)の算定
GHG(Greenhouse Gas/温室効果ガス)とは、地球を温暖化させる性質を持つガスの総称で、企業の排出量管理は国際基準「GHGプロトコル」に基づき Scope1・2・3 に分類されます。
- a. VOC排出量(Scope1):SDS は Scope1 算定の「前提データ」を提供します。
- b. 廃棄物中の化学物質(Scope3):企業の排出量の大半は Scope3(サプライチェーン排出)に集中しています。SDSの組成情報は、Scope3算定に直接使用することができます。
これらのことからわかるように、SDSは「安全・法令・環境・サステナビリティをつなぐ総合データシート」へと進化しています。
2. 2025年JIS改正の全体像
2025年の改正は、以下の2つのJISが対象です。
- a. JIS Z 7252:2025(GHS分類)
分類ルールの最新版化(GHS Rev.9対応) - b. JIS Z 7253:2025(SDS・ラベル作成)
SDS・ラベルの書き方ルールの最新版化
国際基準GHS Rev.9に整合し、分類方法・注意喚起語・区分の扱いなどが大きく見直されました。
3. 実務に影響する改正ポイント
① GHS分類の見直し
- a. 新しい区分の追加
| 分類体系 | 新設された区分 |
|---|---|
| 可燃性ガス | 区分1A / 1B |
| 加圧下化学品 | 区分1 / 2 / 3(体系そのものが新設) |
| 爆発物 | 区分2A / 2B / 2C(体系再構成) |
- b. 区分の統合・整理
| 分類体系 | 統合・整理の内容 |
|---|---|
| 爆発物 | UN 1.1〜1.6 → 1 / 2A / 2B / 2C に再構成(統合) |
| 可燃性ガス | 区分1 → 1A/1B に細分化、区分2の定義整理 |
| エアゾール | 区分1〜3の体系を整理し、加圧下化学品と整合化 |
| 皮膚・眼の腐食性/刺激性 | 試験法の優先順位・適用範囲を整理(区分は維持) |
| 急性毒性 | 区分外(区分5相当)の扱いを整理し統一 |
- c. 計算式(ATE)の変更
- ATE の“基本式そのもの”は変わっていません。ただ、混合物分類ロジックの運用ルールが大幅に整理され、実務上の計算結果が変わるケースが増えます。
- d. 物理化学的危険性の基準見直し
- 2025年改正 JIS Z 7252 では、物理化学的危険性(Physical and Chemical Hazards)の分類基準が国際GHS Rev.9
に合わせて大幅に整理され、特に「爆発物」「可燃性ガス」「加圧下化学品」「エアゾール」「酸化性」「自己反応性」などで“基準そのもの”が見直されています。
特に混合物の分類ロジックが変わるため、既存SDSの再分類が必要になるケースがあります。
② 注意喚起語・絵表示の変更
一部の区分で注意喚起語が変更され、絵表示の組み合わせも見直されました。
現場のラベル・掲示物の更新が必要です。
③ SDSの記載内容の強化
- a. 物性値の記載基準が明確化
- b. 反応性・安定性の情報が詳細化
- c. 法令区分の記載ルールが整理
- d. 改訂履歴の明確化
特に物性値(蒸気圧・沸点・密度など)は、GHG算定や工程管理にも影響するため、データの正確性がより重要になります。
④ ラベル表示の厳格化
ラベルの要素(製品名、絵表示、注意喚起語、危険有害性情報など)が国際基準に合わせて整理されました。
現場の容器ラベルの更新が必要です。
4. 企業が対応すべき実務ポイント
2025年改正に対応するためには、次の4つのステップが必要です。
① SDSの最新版収集
メーカーからの改訂版を確実に入手し、旧版を廃棄します。
これに迅速に対応するためには、電子SDS管理システムの導入が効果的です。
② GHS分類の再確認
自社でSDSを作成している場合、分類ロジックを2025年版に更新する必要があります。
③ ラベル・掲示物の更新
現場の容器ラベル、保管庫の掲示、教育資料などを新基準に合わせて更新します。
④ 教育の実施
現場での誤表示、誤使用、誤解による事故防止、また監査・行政指導に耐えられる教育体制の構築は欠かせません。
5. SSBJ(日本版IFRS S1/S2)との関係
SSBJ(日本版 IFRS S1/S2)は、日本のサステナビリティ開示基準であり、国際基準 IFRS S1(一般開示)/S2(気候関連開示) をベースに、日本の制度(有価証券報告書・金融庁規制)に合わせて整備された“日本版サステナビリティ開示のルール”です。
2025年3月に最終基準が公表され、適用時期については金融庁WGで検討中ですが、2026年度以降の段階的義務化が想定されています。
2025年JIS改正は、サステナビリティ開示にも影響します。
- ・SDSの物性値 → VOC排出量(Scope1)
- ・組成情報 → PRTR・化審法の対象確認
- ・廃棄方法 → Scope3排出量
- ・危険有害性 → リスク特定(IFRS S1)
つまり、SDSの品質がそのまま開示の品質につながることになります。
6. まとめ
2025年改正は「SDSの質」を問う時代の始まりであり、単なる形式変更ではありません。
- ・GHS分類の精度
- ・物性値の正確性
- ・ラベルの適切性
- ・教育の徹底
- ・データの一元管理
これらすべてが、企業の安全・法令遵守・環境管理・サステナビリティ開示の基盤になります。
SDSは、もはや「読むだけの文書」ではありません。企業のリスクと環境情報を支える“データ基盤”として扱う時代が始まっています。
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【この記事の執筆・監修者】
今住 則之
株式会社アイアンドディー
顧問
技術士(化学部門)、環境計量士。石油元売会社の研究所にて製品開発や品質管理に従事したのち、産業技術総合研究所や大学機関との共同研究を歴任。長年の実務・研究で培った高度な知見を活かし、現在は国内外の法規制対応、製品SDS、環境管理など幅広いコンサルティングを手掛けている。
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