化学物質リスクアセスメントの実務
― “紙の評価” から “現場で使える仕組み”へ ―
化学物質リスクアセスメントは、安衛法で義務化されて以来、多くの企業で実施されています。しかし現場では、「形式的にやって終わり」「SDSのコピーを貼っただけ」「評価結果が現場改善につながらない」といった課題も少なくありません。
本来のリスクアセスメントは、危険を見える化し、現場の行動と設備を改善するための仕組みです。ここでは、実務で本当に役立つリスクアセスメントの進め方を解説します。
こんなお悩みありませんか?
リスクアセスメントが「SDSのコピーを貼るだけ」の書類作成になっている
化学物質の危険性ばかりを気にして、現場の「作業実態」を反映できていない
評価結果をどう活かせばいいか分からず、具体的な安全対策が進まない
事前知識:リスクアセスメントの定義と関連法令
・リスクアセスメントとは事業場に潜在する災害要因、危険要因、有害要因を事前に調査し、リスクを推定評価する分析作業のことを言う。
・安衛法では、第28条の2において、「建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等を調査し、その結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずること」(抜粋)が事業者の努力義務として規定されている。
1. リスクアセスメントの目的は “危険の見える化”
リスクアセスメントの目的は、
- ・どの作業で
- ・どの化学物質が
- ・どのように危険なのか
を明確にし、対策の優先順位をつけることです。
▼ 形式的な評価が失敗する理由
- ・SDSの危険性だけを見て判断している
- ・現場の作業実態が反映されていない
- ・評価結果が改善につながらない
- ・現場が「自分ごと」になっていない
重要なのは、“作業ごとに評価する”ことです。
同じ化学物質でも、塗布・加熱・混合・洗浄など、作業によってリスクは大きく変わります。
2. リスクアセスメント実施のタイミング
リスクアセスメントは一度実施したら終わりではなく、作業者、設備、材料、作業方法などが変更になった場合に実施することが必要である。
- ・作業者の新規採用、入れ替わりなど作業者が変更になったとき
- ・設備の新設、更新、老朽化による撤去など変更が行われたとき
- ・使用する原材料の購入先変更、仕様変更などが行われたとき
- ・作業手順に変更が行われたとき
3. 実務で使えるリスクアセスメントの流れ
リスクアセスメントは、次の5ステップで進めると実務に落とし込みやすくなります。
1. 化学物質の特定
- SDS・台帳から対象物質を洗い出します。
- PRTR・化審法・消防法の対象物質は優先度が高いです。
2. 作業の洗い出し
- 現場を歩き、作業を細かく分解します。
- 調合、移し替え、塗布、加熱、洗浄など、工程ごとにリスクが変わるため、ここが最重要です。
3. 危険有害性の把握
- SDSの以下の項目を中心に確認します。
- ・GHS分類(急性毒性・皮膚腐食性・発がん性など)
- ・物性(蒸気圧・沸点・引火点)
- ・反応性
- ・PPE情報
4. リスクの見積り
- 実務では、次の3つを軸に評価すると分かりやすいです。
- ・危険性の大きさ(SDS)
- ・ばく露の可能性(作業実態)
- ・管理状態(換気・密閉・PPE)
- 「危険性 × ばく露 × 管理状態」でリスクを数値化すると、改善の優先順位が明確になります。
5. 対策の検討
- 対策は、次の順番で検討するのが原則です。
- 1. 代替(より安全な物質へ)
- 2. 密閉化・自動化
- 3. 換気・局排
- 4. 作業方法の改善
- 5. PPE(最終手段)
- PPEだけに頼る対策は“最後の手段”であることを現場に共有することが重要です。
4. SDSを“評価の根拠”として使う
リスクアセスメントでは、SDSの以下の項目が特に重要です。
- ・2項:危険有害性の要約
- ・3項:成分情報(PRTR・化審法の対象確認)
- ・7項:取扱い・保管
- ・8項:ばく露防止・保護具
- ・9項:物性(蒸気圧・沸点・引火点)
- ・10項:反応性
- ・11項:有害性情報
SDSは“読む”だけでなく、評価の根拠として引用することで、説得力のあるリスクアセスメントになります。
5. 現場で使えるリスクアセスメントにするための工夫
リスクアセスメントは、評価して終わりでは意味がありません。
現場で使える形に加工することが重要です。
1. 作業手順書に反映
- 危険ポイントと対策を手順書に組み込みます。
2. 現場教育に活用
- 評価結果を写真・動画とセットで教育すると理解が深まります。
3. インシデントと連動
- ヒヤリハットと評価結果を紐づけることで、改善の優先順位が明確になります。
4. SSBJ(日本版IFRS S1/S2)にも活用
- リスクアセスメントは、リスク特定、ガバナンス、管理プロセスの開示根拠として使えます。
6. ありがちな失敗とその対策
失敗その1:SDSの危険性だけで判断
- → 作業実態(ばく露)を必ず評価に含める。
失敗その2:評価が複雑すぎて現場が使えない
- → 3軸(危険性 × ばく露 × 管理状態)でシンプルに。
失敗その3:改善が進まない
- → 対策の優先順位を明確にし、責任者と期限を設定。
7. まとめ:リスクアセスメントは “現場改善のエンジン”
化学物質リスクアセスメントは、単なる書類作成ではありません。
- ・危険の見える化
- ・作業改善
- ・教育
- ・ガバナンス
- ・法令順守
- ・SSBJ開示
これらすべてをつなぐ“現場改善のエンジン”です。
評価の質が上がれば、事故ゼロに近づき、企業の信頼性も高まります。
化学物質管理の支援ツール「Dr.EHS Chemical」は、以下のようなメリットがあり、リスクアセスメント(RA)機能が優れています。
- ・厚労省のCREATE-SIMPLEをクラウド化
- ・ばく露評価 → 対策 → 記録保存まで一気通貫
- ・作業ごとにRAを標準化できる
「Dr.EHS Chemical」の概要については以下ボタンより製品ページをご覧ください。
【この記事の執筆・監修者】
今住 則之
株式会社アイアンドディー
顧問
技術士(化学部門)、環境計量士。石油元売会社の研究所にて製品開発や品質管理に従事したのち、産業技術総合研究所や大学機関との共同研究を歴任。長年の実務・研究で培った高度な知見を活かし、現在は国内外の法規制対応、製品SDS、環境管理など幅広いコンサルティングを手掛けている。
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